新連載 『天日槍命(あめのひぼこ)は営業職』第2話

新しいジャンル「ご近所の神様たち」についての物語を始めます。よかったら見ていってください。

ちょうど巷は元旦で初もうでの最中? 「神様の裏事情」でこんなのがあったらおもしろいかも・・・ばちあたらないように気を付けます(笑)

連載
『天日槍命(あめのひぼこ)は営業職』
  作:Noël Herscher Oe(ノエルハーシェルオーエ)
 第2話:僕と重力と、神の顧客リスト

作:Noël Herscher Oe(ノエルハーシェルオーエ)

本エピソードには一部実在の地名等が登場しますが、物語自体はフィクションです

1. 物理学徒、神に問う

天日槍命(あめのひぼこ)が去った後の円山川のほとりには、秋の夕闇だけが残っていた。

しかし、俺の胸の中は、夕闇どころかブラックホールのような大混乱だ。

「神徳エネルギー? 営業職? KPI?」

俺の手に残された名刺が、月明かりを反射して妙に現実味を帯びている。

俺の名前は神代(くましろ) 瞬(しゅん)。京都の国立大学院で特殊物理学を学ぶ、しがない修士二年だ。

俺の日常は、神話でも霊験でもなく、テンソルと場の量子論によって構成されているはずだった。それなのに、今、俺が目の当たりにした「異常な重力勾配」の発生源は、黒いスーツの美人営業職(神)だった。

「神様が、Wi-Fi使ってるなんて……」

天日槍命の言葉が脳内でリフレインする。

「神もアップデートする時代なの」。

俺はすぐに、胸ポケットから小型の**「重力子探知機(グラビトン・スキャナー)」**を取り出した。教授が開発した、ゼミの宝ともいうべきデバイスだ。

豊岡市の重力場マップには、わずか数分前、天日槍命が立っていた座標に、短時間ながら強烈な**重力子集積反応(グラビトン・スパイク)**の痕跡が残っていた。

このデータは、俺たちの研究室にとって、まさに生命線だ。


2. 崩壊寸前の研究室

俺たちの研究室――「特殊重力場理論ゼミ」は、今、存続の危機に瀕している。

指導教官の時空(ときぞら)教授は、「超自然現象」を科学の俎上に載せようとしたがために、学会や大学上層部から「オカルト教授」の烙印を押されている。研究は停滞し、資金も尽きかけている。

時空教授の理論は、こうだ。

「瞬、我々が認識している空間は三次元だ。しかし、この三次元世界に張り巡らされている重力こそが、高次元への入り口なのだ!」

彼は、万物を結びつける重力の正体を、三次元空間の膜(ブレーン)から漏れ出た、高次元からの力の残滓だと説明する。

「寺社仏閣、古代遺跡。そういった場所で発生する『不思議』な現象は、三次元世界では説明できないほど大きな重力場の乱れを伴う。これは、信仰心や集合的無意識といったエネルギーが、局所的に空間を歪ませ、高次元の扉を叩いている証拠だ」

その「扉」こそが、俺たちが豊岡で探していた「とんでもないモノ」の正体。

そして俺たちの探知機は、その「漏れ」である重力子を検出するために作られた。

この理論を証明できなければ、俺の研究は「非科学的」として一掃され、俺の博士への道も閉ざされる。俺にとって、この研究は未来そのものだった。


3. 四次元の軸は時間か、重力か

研究室の危機を救うには、天日槍命の協力が不可欠だ。

しかし、俺はそれ以上に、今、神に直接尋ねたい疑問があった。

それは、物理学の分野で数百年も議論され続けている、究極の問いだ。

「神様、四次元の軸は時間($t$)なんですか、それとも重力($G$)なんですか?」

アインシュタインの相対性理論では、三次元空間に時間軸($t$)を加えた時空(spacetime)が四次元の基本構造だとされる。

だが、時空教授は、重力($G$)こそが真の高次元の軸であり、時間($t$)は単にその軸上で生じる事象の配列に過ぎないと主張している。空間や時間を超越した存在である神なら、その「解答」を知っているのではないか。

俺はスマホを取り出し、名刺に書かれていた連絡先に電話をかけた。

「……はい、出石神社、営業部の天日槍です。ご連絡ありがとうございます。あ、円山川でお会いした……」

俺は、一気にまくし立てた。

「あの、研究の話は後でいいんで、まず伺いたい。神様の視点で、四次元目の軸は時間($t$)なんですか? それとも、僕らが考えている重力($G$)なんですか?」

電話口の向こうで、サバサバした笑い声が聞こえた。

優秀な営業職が、面倒な顧客対応をする時の、あの少し引いた笑いだ。

「あら、ごめんなさい。うちの部署は、そういう**基礎理論のカスタマーサポートはやってないのよね。**私どもの担当は、あくまで『現世利益』のセールスでして」

彼女は続けた。

「その問いへの答えは、『ご契約』いただいた後の、特別サービスになるわね」


4. 神は重力子探知機に釣られた

「ご契約? ……つまり、協力すれば教えてくれるんですか?」

「ええ。ただし、あなたには、私がお客さんを探すフィールドワークに同行してもらうわ。但馬地方の神々の『信仰心低下問題』のデータ収集に協力してもらうのが、最低限のご契約内容よ」

俺は息を呑んだ。

神のフィールドワークに同行? 非科学的な現象を科学的に計測できる、またとないチャンスだ。

「わ、わかりました。協力します! ただし、その活動のデータを、僕の研究に使わせていただくことを条件に」

「取引成立ね。じゃあ、明日の朝、出石神社の鳥居前で。……あとね、神代さん」

天日槍命の声が、少し悪戯っぽくなった。

「あなたはなぜ、私があなたの前に現れたのか、わかってる?」

「え、それは……」

「あなたの重力子探知機(グラビトン・スキャナー)よ。あれが、私の神徳出力と共鳴したの。私たちがお客様を探すための『神脈レーダー』に、あなたの探知機が強力なノイズとして引っかかったのよ」

その瞬間、俺の全身の血が、一気に沸騰した。

俺が、神を釣った……?

俺たちのデバイスが、本当に神々のエネルギーを探知し、そして、逆に神に探知されたのだ。俺の物理学の論理が、目の前の現象を完全に証明した――。

「つまり、私は、営業妨害のノイズを調査に来たわけ。あなた、うちの『信仰心低下問題』の犯人候補よ」

天日槍命はそう言って、電話を切った。

俺が、俺の研究そのものが、神を巻き込んだ大事件の引き金だったのだ。


5. 但馬神々セールス戦争へ

こうして俺、神代瞬は、大学院の危機を一旦棚上げにし、営業職の神・天日槍命の「神徳セールス・フィールドワーク」に同行することになった。

だが、彼女が追う「信仰心低下問題」の裏には、きっと熾烈な**「顧客(信者)争奪戦」**が隠されているに違いない。

但馬の土着の神々。さらには、天照大神や七福神といったメジャーな神々の、想像を絶する「営業戦略」が、俺の物理学の常識を遥かに超えた形で展開されているはずだ。

「重力子」を手に、俺は明日、神の営業車に乗り込む。

神々の顧客リスト――。

それは、俺の研究を救う奇跡のデータとなるのか、それとも、俺を神話の世界に引きずり込む禁断のパンドラの箱となるのか。

※この物語はフィクションであり、実在の寺社・団体名とは関係ありません。


第3話へ続く


読者の皆様へ

神様が営業活動をしているとしたら、あなたならどんな「現世利益」を注文しますか?

コメント欄で教えてください!

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です