天日槍命は営業職 第1話 神様、スーツで現る。
📖 天日槍命は営業職
第1話 神様、スーツで現る。
――神様に会った。
こう言うと、たいていの人は笑うだろう。
「疲れてるんじゃない?」とか、「それ夢でしょ」とか。
でも、これは本当にあったことだ。
しかもその神様は――
黒いスーツを着ていた。
秋の夕方。兵庫県・豊岡市。円山川のほとり。
神代瞬は、ため息をつきながら歩いていた。
「……終わったな、ゼミ」
彼は大学院の修士二年生。
特殊重力場理論――重力のゆがみを研究している。
けれど今、そのゼミは存続の危機だった。
「博士課程も、終わりか……」
そのときだった。
「営業、かけていい?」
「……は?」
振り返ると、そこにいたのは――
黒いスーツに白いブラウスを着た女性だった。
女性は名刺を差し出した。
出石神社 営業担当
天日槍命
天日槍命
「……いやいやいや」
「神様が営業って何ですか」
「時代に合わせてアップデートしてるの」
「信じてない?」
「信じるわけないでしょう」
その瞬間――
川の水面が、金色に光った。
「……え?」
説明できない。理屈が崩れる。
「これでも、まだ理屈で説明する?」
「……あなた、本当に」
「神様よ。しかも営業職」
彼女はタブレットを取り出した。
「これ、“信仰度”」
下がり続けるグラフ。
「でね。あなた、面白いもの持ってるでしょ」
「それ、営業妨害」
「は?」
「取引、しない?」
夕日が、二人の間を赤く染める。
「理屈で、奇跡を起こしてみなよ」
――第2話へ続く
